ツアー中にも陸生のヤシガニやヤドカリ、カニを頻繁に観察できます。
このページでは、それらの生き物、特にヤシガニとオカヤドカリについて解説しています。
【要点】
・ヤシガニはオカヤドカリの仲間
・カニもヤドカリも十本脚の節足動物だがその形態が異なる。
ヤシガニは名前にカニと入っていますがオカヤドヤドカリに近い生き物です。
ヤシガニ属(ヤシガニのみ)とオカヤドカリ属(その他のオカヤドカリ)の生き物がオカヤドカリ科という生き物のグループになります。
カニ、ヤドカリ、エビなどはほとんどが十脚目という生き物のグループで基本的な形態構造は似ていますが、ある部分が変形したり、退化したり、発達したりして異なる形態をしています。
カニとヤドカリの異なる点は
・見た目の脚の数が違う
どちらもハサミを含めた脚の数が10本ですが、カニは10本脚に見えますが、ヤシガニやオカヤドカリは脚の一部が退化していてヤシガニは8本、オカヤドカリでは6本に見えます。
オカヤドカリは第4脚、第5脚は貝殻の中に収まっていて貝殻を支えるのに役立てています。
ヤシガニは第5脚は退化し、第4脚はハサミのような形態に変形しています。
・腹部
カニは腹部が退化し下に折り畳まれていますが、ヤドカリは発達した腹部があり右側に曲がっているのが特徴です。貝殻に入りやすい形になっていると思われます。また、右に曲がっているため腹肢(卵を抱えるのに使う腹部の脚のような構造)も右側は退化し左側だけにみられます。
ヤシガニも腹部は折り畳まれていますが、雌個体の腹肢は左側だけに見られ左右非対称になっているため、ヤドカリから進化した生き物だと考えられます。
・触覚
触覚は2対ありますが、カニは外側の第二触覚が退化し短めの触覚が一対に見えますが、ヤドカリやヤシガニは長い触覚が特著で特に第二触覚が長いです。
(要点)
・一生のうち陸上生活と海中生活の両方を行う
・陸上に上がってからは海中で生活できる機能は失う。
ツアーで観察できる海岸のヤドカリやヤシガニ、カニの多くは一生の中で海中生活も陸上生活も行う、少し珍しい生き物です。
上図で示したオカヤドカリの一生を見て見ると、
陸上で成長したオカヤドカリは卵を抱え、孵化した幼体を海に放ち待ます。プランクトン生活(浮遊生活)後に、海底のヤドカリを経て上陸します。その後は海の中で暮らすことなく陸のヤドカリとして生きていきます。
海中でも生活するためエラ呼吸を行います。陸にあがってからもエラを常に湿らせておいて水に溶けた酸素をエラ呼吸で体内に取り込んでいます。
(要点)
・夏場は卵を抱えたカニやヤシガニに出会う
・卵を腹部で孵化させ、波打ち際で幼生を海に放つ
夏になると腹部にオレンジ色の卵を抱えたヤシガニやカニに出会います。
(産卵~抱卵)
交尾し産卵した雌個体は卵を腹肢に付着させます。5月頃から産卵期になるそうです。腹肢に着けたまま孵化するまで大切に守ります。
(孵化~放幼)
約1ヶ月程度の抱卵を経て孵化すると波打ち際から海に入り幼生を放ちます。
そのため、6月頃からは夜間の海岸は騒がしくなります。大潮の引き潮にのせて放つので、満月や新月の周辺の日程の夜間の満潮時間過ぎに放幼を観察できます。
私の観察した限りでは、オカガニやカクレイワガニ、オカヤドカリは砂浜で放幼するのを見かけますが、ヤシガニはもう少し転石帯を好んで放幼しているような印象を受けます。
海に放たれた幼生はプランクトン生活を経て、海の底を歩き、やがて陸上に上がってきます。
【以下、写真掲載順に】
・抱卵中のヤシガニ
・抱卵中のオカガニ(孵化前)
・放幼直前のオカガニ
・オカガニの放幼
オカヤドカリ科 ヤシガニ属
陸生甲殻類の中では最大種。
成体は貝殻を背負わないが小さい頃はヤドカリとおなじように貝殻に入るらしい。
海岸付近の岩礁地帯で多く見かける。
夜行性で日没以降活発に動く。夜歩いている姿を目撃する。日中は洞窟内やアダン林の茂みなど暗い場所では動いているのを見る。
幼生期海中を漂うプランクトン生活をするが、その後は陸で生活する。
夏に繁殖を行う。交尾後腹部の裏側に卵を産みつけ1~2ヶ月生活し、孵化した幼生を海に放つ、幼生は海を漂い、その後海底生活を経て陸にあがる。海中で生活する機能を失い、残る生涯は陸で生活する。成体になるまでは4~8年程かかるらしい。
・分布
ヤシガニはインド洋と西太平洋の熱帯~亜熱帯域に広く分布している。ところどころに分布しない空白地帯がありボルネオ島等では生息しないという。また、ヤシガニは成長が遅く食用目的に乱獲され姿を消した島もある。
日本では沖縄や奄美諸島の一部、小笠原諸島に分布するが、小笠原諸島ではかなり稀少らしい。
・何を食べるのか?
(写真)アダンの実を食べるヤシガニ、漂着したココヤシの実を食べるヤシガニ
ヤシガニと言えばヤシの木に登ってヤシの実を食べる姿をイメージする方も多いと思う。ヤシの実を好んで食べるが雑食性であり、食べれるものなら何でも食べます。
沖縄ではアダンの実を食べることが知られており、木に登って熟したアダンを食する姿を見る。
・ヤシガニの水の飲み方
ヤシガニ観察のため転石や岩礁地帯を散策していると、しばしば水溜りで飲水するヤシガニの姿を見ます。
その飲み方がおもしろく、はさみを器用に使いながら飲んでいます。
ちなみに、ヤシガニは海水も雨水も飲むらしいです。
オカヤドカリ科 オカヤドカリ属
沖縄では、オカヤドカリ、ムラサキオカヤドカリ、ナキオカヤドカリ、オオナキオカヤドカリ、コムラサキオカヤドカリ、サキシマオカヤドカリが生息確認されていますが、日中の海岸で見るオカヤドカリのほとんどがムラサキオカヤドカリかナキオカヤドカリです。
稀にオオナキオカヤドカリにも出会います。
優占二種と内陸性のオカヤドカリは簡単に観察できますがその他の種は極めて個体数が少なくほとんど見ないです。
全種が天然記念物に指定されているので持ち出しなどはできません。
・食性
ヤシガニ同様に雑食性。
アダンの実を食べる姿をよく見ます。木に登って食べるのかもしれませんが熟れて落下した実を食べている場面によく出会います
他にも、漂着したココヤシの実、漂着した海藻、魚類、鯨、ウミガメなどを食べる姿を目撃します。
写真は アダンの実を食べている様子 と 孵化後のアカウミガメの子供を食べている様子
・ナキオカヤドカリとムラサキオカヤドカリの見分け方
久米島で頻繁に観察できるのは
・ナキオカヤドカリ
・ムラサキオカヤドカリ
・オカヤドカリ
の3種です。
そのうちオカヤドカリは内陸部に生息するので海岸では出会わないです。
ツアー中によく出会う日中の海岸にいる小さなヤドカリ達は、ナキオカヤドカリかムラサキオカヤドカリで比率はナキオカヤドカリの方が多いです。
この二種については形態は似ていて、ムラサキオカヤドカリも小さいうちは紫色ではないので色で判別はできないです。
一番分かりやすいのは眼柄(目の飛び出している部分)の下部の斑点の有無です。
斑点なし→ムラサキオカヤドカリ
斑点あり→ナキオカヤドカリ
判別がつかない微妙な個体もいますが、よく観察してみてください。
オカヤドカリは眼柄が真っ黒で、内陸部にいて集落の中の道などでもよく見ます。
紹介した3種についてまず見分け方をマスターして、これらでないものがあれば撮影して後でネット等で調べるのがよいと思います。
ちなみにツアーで行く無人島ではオカヤドカリ、ムラサキオカヤドカリ、ナキオカヤドカリ、オオナキオカヤドカリは見たことがあります。
・オオナキオカヤドカリ
久米島の海浜で多く見れるオカヤドカリの仲間はムラサキオカヤドカリ、ナキオカヤドカリが大半ですが、稀に出会うのがオオナキオカヤドカリ。
眼がマッチ棒のように長く、全体的に少しテカテカしたような体をしているので、すぐにきづけるかと思います。
感覚的には全体の1%に満たないくらいの遭遇率で、日中でも割りと大型の個体を見かけます。(というか、小さい個体は判別できずに見逃しているのかと···)
ヤドカリ好きはぜひ探して見るのも面白い。
見つけると結構嬉しいですよ。
沖縄にはオカガニ、ミナミオカガニ、ムラサキオカガニ、ヘリトリオカガニ、ヒメオカガニ、ヤエヤマヒメオカガニの6種のオカガニ科が生息することが知られています。
久米島では、オカガニとミナミオカガニをよく見かけます。
オカガニもヤシガニと同じく、幼生期を海中で過ごしその後陸上生活します。
腹部に抱えた卵が孵化すると、波打ち際で幼生を海に放つ。そのため繁殖時期になると海岸付近で観察できる。
5~10月の間抱卵している雌個体が見れたので、ヤシガニより繁殖時期が長いのかもしれない。
久米島で最も普通にみるオカガニ科の生き物。拳サイズくらいの個体が多く初めてみたら「大きいカニだ」とおもうかもしれない。
幼生期以外を陸上で生活し、海岸近くの草地や海岸林などで巣穴をよく見かける。
繁殖期は夜の道路を頻繁に歩いているのでぜひとも観察してもらいたい。
十脚目オカガニ科
別名オオオカガニとも、オカガニよりも一回り大きく、眼柄が長く左右のはさみの大きさが違うことで区別できる。
マングローブ湿地を好みオカガニと生息場所のすみわけるらしいが、久米島にはマングローブ湿地環境が少ないためか同じ場所にいるような印象。
沖縄ではかなり稀少なようで久米島での記録もないっぽい。
他種に比べ眼と眼の間の間隔が狭いので区別がつく。
写真のムラサキオカガニはカニ好きの友人が久米島で見つけたもの。
幼生期を海中でプランクトン生活(浮遊生活)する陸生甲殻類(ヤシガニやオカヤドカリなども)は、海中を漂い他の島に分布を広げてきたと考えられる。
従って、久米島に生息しない種であってもどこか南の海から流れ着いて偶発的に生息する可能性がある。
もしかしたら、海外にしかいないようなカニが流れ着いてきているかも??と夢は膨らむ。よりレアな陸生甲殻類を探してみるのも楽しいかもしれない・・・かなりマニアックなカニ遊びです。
夏の夜海岸を歩くと一番多く見るカニ。
綺麗な紫色をしている。
石灰岩地などに生息しており、繁殖時期は黒い卵を腹部に抱えた雌個体が海岸を歩いている。
動画はカクレイワガニの放幼生の様子。
腹部で孵化した幼生を波打ち際で放つ。
甲殻類の放幼生を観察しようと、夜の波打ち際を散策していると一番高頻度で遭遇するのがカクレイワガニ。
カクレイワガニより大きい。
石灰岩地帯の水溜りなどでよく見る。
巻貝をはさみで割って中身を食べている姿を目撃するが、オカヤドカリを捕食していたという報告もある。強靭なハサミなんですね。
海岸の岩場などでごく普通に見る。
昼間でも観察でき、人の気配を感じると素早く隠れる。
夏の繁殖期は卵を抱えたオカガニが放卵(放幼生)のため海岸に移動します。道路を横切る時、車にひかれて潰れているオカガニを度々目撃します。
久米島でもオカガニがそこら中を歩行しています。夏の海岸沿いの道を走行する場合は細心の注意を・・・
護岸を降りる卵を抱えたオカガニ
久米島の北西部の海岸はオカガニがたくさん道路や海岸を歩いています。 海側の道路沿はほとんどが垂直式の護岸構造物が設置されていますが、オカガニは障害物となる護岸を一所懸命、登り降りしながら海に向い、放幼生し、また登り降りして陸に帰っていきます。
このように生き物の動く方向に横断的に障害物がある場合それを乗り越えていかなければなりません。
護岸の存在がオカガニの繁殖にどれくらい影響しているのかは定かではありませんが、放卵する雌個体にとっては、体力の消耗や到達時間拡大による捕食の可能性が増えることが考えられます。
また、海中生活を終え上陸した幼い個体は登ることができるの??等の疑問もあります。
護岸と繁殖活動の相関性については、想像の域ですので今後の一つのテーマとしてフィールド観察をしていきたいです。