久米島ではアカウミガメ,アオウミガメ,タイマイの3種が産卵のため上陸します。
アオウミガメ、アカウミガメの産卵が多いです。
雌の個体は1シーズンに2週間程度の間隔で3~5回程度同じ砂浜に上陸し産卵します。
産卵の多い時期
アカウミガメ・・・4月から7月
アオウミガメ・・・7月から9月
産卵のために上陸した雌個体は、産卵場所を探し「ボディピット」「穴掘り」「産卵」「埋め戻し」という順に産卵行動を行い帰海します。
途中で止めて新しい場所で産卵をしたり、産卵せずに帰海する場合もあります。
上陸したウミガメは、砂浜を陸側に進みます。基本的に樹や岩などの障害物にぶつかると方向を変えながら、砂浜の上部の植生帯や低木林の縁まで行くことが多いです。
〔写真-上陸後のアカウミガメ(沖縄島国頭村)〕
ボディピットとは穴掘りに先立ち浅い穴を掘り体を置く場所を聖地する行動です。 前後の肢と体をすりつけて掘ります。
〔動画‐アカウミガメのボディピット状況(鹿児島県大隈半島)〕
動画で確認できるように後肢を器用に使い穴を掘ります。
肢が届かなくなる深さまで掘ります。
〔動画-アカウミガメの穴掘り状況(鹿児島県大隈半島)〕
掘った穴に卵を産み落とします。ピンポン玉のうような形状の卵を2,3個ずつボトボトと産み落としていきます。
〔動画‐アカウミガメの産卵状況(鹿児島県大隈半島)〕
産卵後、2段階の行動で卵の上に砂をかけます。
まず、後肢で卵室を埋め戻します。その後、前進し前肢も使いながら砂を飛ばしボディピットも埋めていきます。
前進してから砂を卵室上部に盛るので、最終的に大きく窪んでいる部分は卵を産んだ場所とは異なります。これを卵の位置を分かりにくくしているということから、後者の行動を「カモフラージュ」とも言います。
夜の砂浜を散策しているとバサバサと砂が飛ぶ音がして、見に行くとウミガメがカモフラージュをしている場合がよくあります。かなり激しく砂を飛ばすので近くにいるとすぐ気付きます。
〔動画‐アオウミガメのカモフラージュ(久米島)〕
〔写真‐カモフラージュ痕跡とボディピット痕跡(沖縄島本部町)〕
産卵が終わると海に戻っていきます。
〔写真-帰海するアカウミガメ(屋久島)〕
種毎によって特徴的な足跡痕跡が見られます。
代表種であるアカウミガメとアオウミガメの肢の使い方や足跡痕跡について解説しておきましょう。
ウミガメは砂浜に上陸し、前肢を使い体を引きずりながら進みます。前肢の使い方が違うので、残る足跡の形状も異なるのです。
砂浜で足跡痕跡を見つけたら、注意深く観察してみて下さい。
↓の動画では2種のウミガメの前肢の動きに注目して見て下さい↓
アカウミガメ
アオウミガメ
●●●● 前肢の使い方が違うため砂浜に残る足跡も異なります ●●●●
初夏~秋にかけて沖縄ではウミガメが砂浜に上陸し産卵を行います。
沖縄は砂浜が多く、ウミガメの産卵地が沢山あります。
ウミガメの産卵場所である」沖縄の砂浜の構造を見てみましょう。
砂浜の構造を見ていくと 海水面の干満の変動により前浜と後浜に分けられます。
前浜(まえはま) forceshore ・・・満潮時海水に浸かる部分
後浜(あとはま) backshore ・・・高潮や台風時のみ海水に浸かる
また、後浜の陸側部にはグンバイヒルガオ等が繁茂する「草本帯」がありその後ろに「樹林帯」があります。ウミガメの卵は、水没すると窒息死するため、産卵場所は、海水に浸からない「後浜」であり、「草本帯」に産卵することも多いです。
上の写真でも撮影時は草本帯に卵が埋まっているのを確認しています。
後浜を見ると海側から陸上に向けて植生の変化が分かると思います。
海側から 無植生(砂浜)→草本植生帯→木本低木植生帯→低木樹林帯→高木樹林帯 と変化しています。
この変化は、植生基盤土壌(底質)の安定具合と大きく関わります。
青で囲まれている部分は、波浪や沿岸流により砂が移動する漂砂現象が起こっており、 堆積したり、浸食されたりを繰り返しているため、低質の移動により樹木が生育できないのです。
海浜はこの漂砂現象が頻繁で植生が見られない不安定帯
台風や高波時には起こるために草類しか生育しない半安定帯
あまり起こらないため樹木が生育する安定帯に分けられます。
先にも述べたようにウミガメの卵は水没しない場所に産む必要があり、砂浜の陸側の半安定帯で産卵することが多く、樹木帯(低木帯)に入り込んで産むこともあります。
ウミガメは全種ワシントン条約の付属書に掲載される絶滅危惧種で日本で産卵する3種は環境省のレッドリストに掲載される絶滅危惧種です。
久米島には、夏になる産卵のため沢山沿岸にやってきます。見かける頻度からも、私が生きている間に地球上から姿を消すということはないと思います。
ただ、ウミガメの繁殖活動である砂浜の状況は悪化していると感じています。
私は、ウミガメの観察や調査を通して沖縄の砂浜を歩いてきましたが、護岸の設置や人工的な海洋構造物などにより潮流が変化しウミガメが産卵しにくくなっているような場所に多く出会いました。また、わずか数年の間で変化していく場所もありました。
砂浜や干潟といった海と陸の狭間にできる環境は非常にデリケートで海、陸両環境からの影響を受けそのバランスにより絶えず変化しながら成り立っています。また、砂浜はウミガメだけでなく多くの生き物の繁殖の場となっており、沖縄ではヤシガニやオカヤドカリ、オカガニなどの陸生甲殻類が放卵を行ったり、ウミヘビのような海の生き物が産卵を行うなど、陸の生き物にとっても海の生き物にとっても繁殖に欠かせない場所になっています。
現代社会の一つの課題ともいえる「人と自然の共生」は社会全体で取り組まなければならない課題だと思います。
この砂浜というのが多くの生物にとって欠かすことのできないものであり、沖縄の砂浜環境が近年大きく変化しているということは、まだまだ社会的に認識不足な気がしています。
ですので、沖縄の海浜ではウミガメの足跡や色々な生き物を観察することができますので、沖縄を訪れた方に砂浜という環境について考えるきっかけになればと思います。